1/20に今年も山田錦コンテストの結果発表会を帝国ホテルで開催しました。今年度は滋賀の川﨑太門さんがグランプリそして準グランプリは栃木モグラファームの鈴木敬さんが栄冠に輝きました。グランプリの川崎太門さんは4000万円の賞金を獲得、準グランプリの鈴木敬さんは1500万円の賞金を獲得されました。グランプリの川﨑太門さんからは「夢のような賞をいただき、本当に感無量。10年後、20年後、30年後、子どもや孫たちが(受賞して)私をこの席に招待してくれることを願って、がんばりたい」と喜びを語っていただきました。まさにこんな言葉を聞いて私たちも感無量。

また、準グランプリの鈴木敬さんからも「何度も挫折しそうになった。でも、昨年、同じ栃木の五月女文哉さんがグランプリに輝いたのを見てもう一度挑戦しようと思った」と、これも主催者冥利に尽きる言葉をいただきました。お二方ともおめでとうございます。

そして、その発表に先立って最近恒例になっている「日本の農業の未来と酒米の可能性」というテーマでパネルディスカッションを開催しました。今年の企画はマッキンゼーのシニアアドバイザーの加茂正治さんにおいでいただいて、彼の考える日本の米作りの構造課題を問題提起してもらい、それに特別審査員である弘兼憲史先生と私が意見を述べるというものです。実は加茂さんは経済同友会のコメ問題を扱う委員会のメンバーでもあり、この問題に関して日本経済から見たバランスの良い広い視点を持っておられることを聞いていたのでお願いしたものです。(加茂さんは頭が良すぎて、一緒に仕事した方からは「話についていけない!」と泣きが入るそうですが・・・、私たちと話すときはレベルを合わせてくれて、超優秀な面は全く見せません。すごい人ですね!)

農業問題は、昨年顕著になったコメ価格の高騰を只々問題にする消費者側というよりマスコミの見方、反対に農家を守るためには高価格を維持しなければいけないとする農林水産族議員や農協を代表とする人たちの見方、どちらも自分たちの立場の中での主張に終始し、外から見ると分かりにくいものです。そうそう、「酒米が高すぎて酒ができません」という酒造メーカーの話も。とにかく、みんな自分の都合だけで話していますから、本当には何が正しいのか何をすべきなのかわかりにくいのです。

ところで、そもそも何で獺祭が一社でこんなシンポジウムを開かなきゃいけないのでしょうか。それは獺祭の特異性に起因しています。獺祭は山田錦しか使いませんが、使用量はけた外れでその数量たるや1万トン。これは日本全体の食用米の生産量748万トンと比べてみるとお分かりのように相当な量です。酒どころ秋田県の全酒蔵の酒米使用量の9千トンと比べてもとんでもない数字だという事がお分かりと思います。しかも、私は今の5倍の売上一千億円を世界で目指すと言ってるのですから、まだまだ必要とする山田錦は増えます。

つまり獺祭にとって、コメの生産がどうなるかは明日のかかった大きな問題なのです。

という事でシンポジウムに戻りますと、加茂さんいわく「日本の農業は、8割以上が3ha以下の耕作面積で運営。一方で、農地の規模が大きくなるほど、労務費を筆頭に生産コストは大幅に減少。よって、農地の集約化が進まない日本の農業には膨大な機会損失が存在」というものです。

そして、私が何より気になったのは、兼業農家ではなく農業を主たる収入源にするいわゆる主業農家が全体の2割の戸数なのですが、生産数量を見ると4割しかないのです。つまり、一般にビジネスの現場で言う2:8の法則が成り立たないのです。これはある意味、政府が近年進めてきた農業保護政策が成功しているからと言えますが、反対に見ると業界が発展することは非常に難しい状態と言えます。つまり、本気でない農家の生産量が6割を占めているのです。これで本当にマーケットが希望するそこそこの品質で安価なだけど生産性が高いから農家にも高収益なコメが期待できるでしょうか? また、獺祭が希望する、高価でも良いから優れた品質の山田錦を造り続けられるでしょうか?

ということで、結局淘汰なしには日本の米作農業は再生しないと私は考えています。そして、ここで怖いのは、今は国際化つまり国際競争の時代ということです。単位面積当たりの収量だって昔は日本はトップクラスでしたけど、今はオーストラリアや米国に遠く引き離され中国にも負けている状況です。このまま、米価が高止まりすれば消費者のコメ離れは加速しますし、外国産米が必ず入ってきてマーケットが適切という価格まで、結局、下がっていくでしょう。

これを政策で今のコメ価格を維持しようとするのは、いくら農水族議員が活躍しても無理です。大きな流れには逆らえないと思います。その時、怖いのは8割の農家ではなく2割の主業農家が崩壊することです。淘汰を拒めば、同じように淘汰を拒んだ日本酒の酒蔵が経験したと同じように業界全体の衰退と崩壊を招くと思います。

ということで、獺祭はどうするのか? 実は悲観的に見ています。残念ながら淘汰の道を日本の農業関係者や政府が選ぶとは考えられません。このままずるずると護送船団方式で行くんだろうなと思っています。

しかし、日本の農業全体がそうなるだろうからと言って、獺祭は、今までうちに納入してくれた農家の崩壊を座して見るわけにはいきません。あの場で宣言させていただいたのですが、「獺祭は今年の山田錦購入価格をこれから三年間保持します」ということです。

今年の山田錦の獺祭の購入価格は業界全体とは一線を画して、飯米などの高騰を組み入れて他社より高くなっています。この春の食用米価格の低下を予想はしていますが、それでも下げるつもりはありません。それは装置産業である山田錦農家の実態を考えるとき、その設備投資を支えなければいけないからです。価格の乱高下は避けたいのです。そして、「獺祭の山田錦を栽培してよかった」と農家に実感してもらいたいからです。山田錦農家には安心して品質向上に挑んでもらいたい。

そして、品質を追いかけて技術革新を繰り返す農家が増えることは結果的に日本の米作農業全体を活性化することになると考えています。そんな話をこのシンポジウムの最後に会場で話させていただきました。